(対面開催)
令和4(2022)年9⽉3⽇(⼟)・4⽇(⽇)


2022年度第55回全国大会は三年振りに対面開催となりました。53・54回大会はコロナ禍によるオンライン開催となり、本部広報委員会には大きな負担をおかけしましたが、53回大会では66題の発表、54回大会では73題の発表があり、本部企画、各分科会の開催についても様々な工夫がなされ、お陰を持ちまして無事終了いたしました。
オンライン開催は事務手続き上の利便さに加え、発表資料がPDF形式でアップロードされることによって多くの演者との質疑応答ができるようになったこと、各分科会の企画・フォーラムにも参加し易くなってきたこと、対面開催であれば会場に足を運べない方々に加え海外の人々も参加が出来るようになるなど、そのメリットも浮上していると感じています。
それをふまえた本大会は、オンライン開催の経験を活かした新たな対面開催となりました。未だコロナ禍の影響が残る中でこの度の開催をお引き受け下さった桐蔭横浜大学の関係者の皆様、とりわけ大会実行委員長の吉鷹幸春先生、大会事務局の大辻康太・高瀬武志両先生には一方ならぬご尽力を頂いておりますことに感謝申し上げます。また、協賛をいただいております企業の皆様に対しまして、厚く御礼申し上げます。
さて、今回は社会が平常化への摸索を続ける微妙な状況下にもかかわらず、70題(人文27、自然9、指導法14、ポスター20)の発表となりました。発表される先生方の志に本学会の新たな展開の息吹を感じております。
本部企画としては、義務教育世代における武道についてのシンポジウムとしてスポーツ庁地域スポーツ課と中学校現場を熟知されているお二人をお迎えし、お三方それぞれの立ち場から話題を提供いただきます。これは本年6月、公立中学校における休日の運動部活動の地域移行が検討され、来年度から3年間の改革集中期間として全国で推進されることが提言されたことを受けての企画です。義務教育世代の運動・スポーツ活動を地域で行うことが将来的に定着すれば、その場が生涯スポーツの場になりうるとも考えられます。武道に焦点を当てれば、現状と課題、将来の見通しなどの情報を共有し、学術的にアプローチすべき課題であることから、この機会に議論されることを企図してのことです。
さて、昨今のロシアのウクライナ侵攻は、1962年の「キューバ危機」を彷彿させます。私達団塊世代が中学生のころのことで、第三次世界大戦の勃発と核戦争への恐怖を肌で感じたことを思い出します。ケネディー大統領は当時、その危機脱出から得た教訓を「かつて世界大戦はささいな出来事と誤った判断の積み重ねで加速し世界に悲劇をもたらした。私たちは正しい情報と確固たる意志で行動しなければならない」(1962年12月16日談話)と述べています。この教訓は「武道」が重視している「機会を捉えた行動」の内容と符合し、「正しい情況認識、適切な判断、迅速な行動」を旨とする競技の鉄則や「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という伝統武道では当たり前の基本姿勢に重なります。今日の状況を生き抜かねばならない我々は、こうした武道の普遍性を再認識すべきなのではないのでしょうか。
対面し相争う者同士が到達すべき「精力善用・自他共栄」という嘉納治五郎の柔道理念は世界に知れ渡っています。これは柔道のみならず日本の伝統的な武道理念を世界の人々にも理解できるように発せられた理念だと見ることも出来ます。そしてそれは、国内におけるジュニア世代に武道とは何かを分かり易く語りかけ、混迷の世界に向けて武道の本質を発信することに繫がると考えるものです。
日本武道学会会長 大保木 輝雄